FACTA
理事長 上昌広
医系技官・感染症ムラと戦う岸田首相に切望す!/医療ガバナンス研究所 上昌広 新政権のコロナ対応は、筆者の期待以上。安倍・菅政権と違い「幽霊病床」に切り込み、経口薬「モルヌピラビル」確保にも成功。 2021年12月号
『岸田政権は「幽霊病床」問題に切り込んだ。厚労省傘下の独立行政法人は、巨額の(コロナ)補助金をもらいながら、患者を受け入れてこなかった。(10月8日の所信表明演説で自民党総裁選の公約の「岸田4本柱」から)PCRという文言が消えていた。「PCR検査を抑制し、抗原検査で一本化したい医系技官が巻き返した(厚労省関係者)」のだが、11月8日、読売新聞は一面トップで「無症状でも無料PCR 政府方針『第6波』対策 指定検査場で」報じた。医系技官・感染症ムラと正面からぶつかっている。経口薬モルヌピラビル(MSD社)の調達もそうだ。MSD社は、厚労省に対して早い段階から情報を提供し、契約締結を提案していた。「臨床試験が成功した場合の購入権という日本に有利な条件(前出の厚労省関係者)」だった。ところが、厚労省は動かなかった。岸田政権は、この状態を挽回した。これは岸田官邸が、厚労省の担当者を従来の医系技官から、事務系キャリアの宮崎敦文審議官に変更したからだ。
我が国の体制は日本の近代史を反映しており、感染症ムラに代表される様々な利権を生み出している。…深い歴史的な洞察が必要だ。日本の感染症対策の礎を築いたのが、明治時代以来の旧内務省衛生警察、伝染病研究所、さらに旧帝国陸海軍であることだ。実際に患者を診療する臨床医の関与は少なく、現在も、その影響が残っている。コロナ対策の法的根拠である感染症法の前身は明治30年に制定された伝染病予防法だ。感染者を早期に見つけ、家族や近隣住民とともに隔離した。この時、近隣住民を含めたことが、後に濃厚接触者の隔離へと発展する。伝染病予防法の目的は感染者の治療ではなく、日本社会の防疫だ。任務に当たったのは、内務省衛生警察である。
特筆すべきは、コロナ流行下の我が国では国民の医療を受ける権利より、防疫が優先されたことだ。その象徴が、保健所がパンクするのを回避するため、「37.5度4日間」のPCRルールであり、第五波での中等症以下の自宅療養だ。医療を受ける権利は、憲法第13条および25条で保障された基本的人権だから、コロナ流行下といえども、厚労省が制限する法的根拠はない。なぜ、許されるのか。それは、厚労省の歴史に由来する。
私は2001~05年までを海軍軍医学校の伝統を継ぐ国立がん研究センター(国がん)に勤務した。当時、国がんの最優先課題は臨床試験体制の整備だった。「あなたは臨床試験に参加出来ないから当院では引き受けられない」と、幹部の医師が患者に説明した。患者の健康よりも、国家目標を優先するあたり、戦前と変わらない。教育は価値観を再生産する。このような組織の内在的価値観は、構成員が意識しないまま、長年にわたって引き継がれていく。…なぜ、コロナ対策で、日本の近代史を詳述するかと言えば、安倍・菅政権で、コロナ対策を仕切ってきたのが、このような機関の関係者だからだ。筆者は、日本の感染症対策は旧内務省衛生警察と帝国陸海軍の交差点と考えている。いまでも情報開示に消極的で独善的な性格や国民の健康より防疫を優先することなど、その影響を色濃く残しているし、世間に知られていない多くのしがらみや利権が存在しているだろう。
防疫を主眼に置いた日本のコロナ体制は、厚労省と感染研が情報を独占するため、臨床研究が進まない。(臨床研究)が、世界のコロナ対策の標準だ。政府に求められるのは、国民の統制ではなく、国民へのサポートだ。歴史的な経緯もあり、我が国の感染症対策には、この視点が欠如している。具体的にやるべきは、感染症法や検疫法を改正し、検査や医療を受ける権利を保障し、あとは現場の(患者と医師が相談して融通無碍に対応する)試行錯誤(臨床研究)に任せることだ。』
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